椿姫

この世の命は短く、やがては消えてゆく。ねえ、だから今日もたのしく過ごしましょうよ!~ウェルディの歌劇『La traviata(道を踏み外した女)』の中で、ヒロイン・ヴィオレッタが皆の中に立ち明るく歌い上げます。日本では原...

静の苧環

いにしへの しづのをだまき 繰りかへし 昔を今に なすよしもがな~伊勢物語にあるこの節は、男目線で歌われたもの。「むかし織物をつむいだ苧環(糸の玉)から糸を繰りだしたように、あの人との楽しかった昔が、今また繰り返されたら...

朧月

昨晩は朧月。ぼうっとしてはっきりしない様子を朧(おぼろ)といい、それを昼間に見れば霞(かすみ)といいます。あわい水滴をまとった春霞、ぼんやり丸いおぼろおぼろな春の月。こののどかで柔和な春の気配、ずっと包まれていたいと思い...

春宵十話

古くから多くの文芸や芸術のモチーフにされてきた花なのに、昔の人が語るほど眼にしないのは、都会暮らしの不憫でしょうか。スミレの花を愛してやまなかった数学者 岡潔。数多く残された文筆の中には、花咲く情景、植物の名前がいくたび...

春雑感

植物がほころぶ季節になりました。自由気ままな花たちの、またとない姿を見つけたときの感動と余韻。まるで残り香のように、胸のこのあたりに続くそれが、今はただ嬉しくて愉しくて。そう、春が来るたび思うのです。人と花が心を響かせあ...

梅とうぐいす

魯山人の随筆に『梅とうぐいす』があります。ある日訪ねてきた女流歌人に「うぐいすの歌を作るとき、あなたなら何を配するか?」と尋ねる翁。「うぐいすにはさしずめ梅であろう」と続けると「それはまた陳腐ですね」という歌人に、なかば...

手紙

手紙。詩人 室生犀星は、かつて自分を尋ねてきた堀辰雄に宛て、一枚のはがきを送りました。その一葉は簡潔にして、金沢の季節の報せと、病弱で苦難の多かった辰雄への思いやりに溢れています。思いは深く、語るな書くな。なんて寸言もあ...