孤独な薔薇がありました。ある日のこと、美しい少女がいちりんのバラを髪に飾ると、人々はなんて美しい花と見惚れ、以来、バラは皆に愛される花となりました。
ところがバラ自身は、この人々が寄せる注目が、自分の魅力でもなければ、決して人に愛されたわけでないことを知ると、そのやるせなさとプライドを棘にかえ、自らの身体にまとうようになります。
しかし間もなくして、バラは自分が棘をまとったことを後悔しました。
なぜなら、子供たちがお母さんの髪に飾るため、バラの花を摘もうとするたびに、その小さな手は棘で怪我するようになったからです。
ゆえに大人は子どもたちに、美しい花には棘があるものと教え、危ないからバラには近づかないようにと、注意するようになりました。
そしてバラは、また孤独になりました。しかしその疎外感、さびしさに耐えかねたバラは、とうとう神様にお願いしました。
「人は私をきれいな花だと言います。でもみな私を遠巻きに見ているだけで、私を髪に挿してくれる人はいなくなりました。神様、どうか私の棘を取ってください。」
すると神様は言いました。
「その棘は、お前が望んでまとったのだから、私にはどうすることもできないよ。ただ、もしお前が他の花たちよりも、自分が一番愛されたいという思いを捨てるならば、明日の朝、私はお前に贈り物をあげよう。」
バラは答えました。
「みんなが立ち止まって私を見るだけでもかまいません。通り過ぎてしまってもかまいません。でももし、その中の誰かひとりでも、私を見て幸せな気持ちになってくれたら、私はどんなに嬉しいでしょう。私はただみんなに、幸せになってほしいだけなのです。」
あくる日の朝、庭にでた子どもたちが、母親を呼びました。
「お母さんきて、このバラ匂いがするよ。とても甘くていい匂いだ。」
「あら本当、こんな美しいバラ色も香りも、なぜ気がつかなかったかしらね」
もともと薔薇は、自分の魅力で愛されたいだけの孤高の花。誰かに気づかれたい思いは、自らを真っ赤に染めました。そこへひとりよがりをやめ、素直な心を取り戻した薔薇に、神様はより美しいバラ色と、人を幸せにする香りを授けたのでした。
事実バラに棘は残りました。けれどバラは庭の中で、いつまでもいつまでも幸せに咲き続けました。
こんな話でした。
嫌われものの薔薇。私は好き。
今日もいちりんあなにどうぞ。
バラ 花言葉「あなたを愛してる 」