アガサ・クリスティ「春にして君を離れ」。今朝何げに読み始めて、面白さに誘われるまま、一日読みふけり先程読了。タイトルはシェイクスピアのソネットを由来にしたそうで、作品の中には同じくソネット18番の冒頭が引用されています。
「汝のとこしえの夏はうつろわず、
心なき風、五月の蕾を揺さぶりて」
ストーリー自体は淡々とリアリティある展開なのですが、ソネットの訳詩が何れもまったく流麗で、それは堀辰雄の小説「風立ちぬ」の中にあるヴァレリーの詩訳「風立ちぬ、いざ生きめやも」を思い出させるし、上田敏が訳したカール・ブッセの「山のあなたの 空遠く「幸」住むと人のいふ」を彷彿させるし、知られていぬのが惜しいほど、日本語の麗しさを噛み締めさせてくれ、私は名訳だと思いました。
たまたま読み始めたこの作品そのものにも、感想はあるのですが、それより作中にて出会ったこのソネットとその翻訳に、とっぷり心酔した一日でありました。読書楽しいこの頃です。今日もいちりんあなたにどうぞ。
汝のとこしえの夏はうつろわず、
心なき風、五月の蕾を揺さぶりて
『ソネット第18番 』
ウィリアム・シェイクスピア
クレマチス 花言葉「旅人の喜び」